34.「貸付手形」の余談です

「貸付手形」に関する余談をひとつ。
私のちょっとした失敗談です。

あれは銀行の不良債権処理が日本経済の大問題になっていた西暦2000年前後のことだったと思います。
その当時の私は、すでに銀行の営業店現場を離れ、本部の貸出全般を管理する部署へ異動していました。
そんな頃のある日の朝刊に、「大手銀行、貸付手形を手形交換所の不渡り処分に!」という内容の記事が掲載されたのです。

そうなんです。
ブログ・“32.「手形貸付」の交換所決済は可能でしょうか?”では、はっきりとした結論を示さず、ただイエスとノーの両方の見解があることだけをお話したのですが、実は、過去に実際に貸付手形を手形交換所で交換提示して不渡り処分を実現した銀行が存在したのです。
にもかかわらず、「貸付手形の交換所決済は可能」という結論づけをブログでしなかったのには理由があります。

それは、新聞記事にあったようにある大手銀行が貸付手形を手形交換所に提示した結果、確かにその手形による借入会社は不渡りによる銀行取引停止処分となりました。
しかし直後にその不渡り処分となった借入会社は、「貸付手形の交換提示は不法行為である」として、銀行を相手取って裁判を起こしたのです。
「不法行為」とは、わざとあるいは不注意によって違法に他人に損害を与える行為のことをいいます。

この裁判の判決が確定しておれば、ブログ32.の疑問に決着をつけることが出来たはずなのですが、残念ながら判決が下されることはありませんでした。
というのは、裁判の原告である借入会社は、その後「粉飾決算」をしていたことが判明し、名実ともに事業継続不能な倒産会社となってしまったので裁判を継続できず、結果的に取り下げとなってしまったからです。
私の知る限り、その後同様に貸付手形を手形交換所に提示した銀行はなく、裁判例も無かったと思いますから、この問題に関する裁判所の見解は、いまだに確定していないはずです。

話を新聞記事の出た朝に戻すと、記事を読んだ私は、「貸付手形の手形交換所提示は不可」を支持する立場でしたから、「とんでもないことをする銀行が出てきたものだ」と大いに憤慨しました。
その日、銀行に出社すると私の所属部署でも新聞記事の内容が大きな話題となっていました。

その時、部長が(この方は銀行本部の貸出全般管理部署の長ですから、役員にも匹敵するほどの偉い方だったのですが)、新聞片手に「ここまでやるとは、さすが〇〇銀行だ!偉いものだ!」と部内に響くような大きな声で言われたのです。

それを聞いた私は我慢できず、部長席にスススッと歩み寄ってご注進に及びました。
「部長!実は〇〇銀行がやった貸付手形の交換決済は、法的には認められていないことなのです。〇〇銀行は無謀なことをしたものですねぇ~」と。

すると部長は、前言にもまさる大きな声で怒鳴られました。
「お前のような甘っちょろいことを言っているから、うちの銀行の不良債権がいつまでたっても減らないんだ!」と。

「物言えば唇寒し秋の風」「口は災いの元」を実感した一幕でした。
以上です。

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