47.銀行員の事件簿1.~実の叔父さんに銀行員は大嘘つきだと言われました事件
それは確か、久しぶりに親族で集まった法事の後の会食でのことでした。
隣に座った母方の叔父さんと酒を酌み交わしながらよもやま話をしていたら、仕事の話になりました。
すると叔父さんは何かを思い出したらしく、唐突に私に向かって「自分は、銀行員ほどの大嘘つきはいないと思っている」と言い出したのです。
実は叔父さんの息子、つまり私のいとこも信託銀行に勤めており、一般的な銀行とは若干毛色が違うにしても同じ銀行員なのです。
当然「えっ、なんで?」と疑問に思った私は、どうしてそんな断定に至ったのかの理由を尋ねました。
すると叔父さんは、その昔に「銀行員から煮え湯を飲まされた経験」を話し始めたのです。
叔父さんにその事件が起こったのは、さらに20数年ほど前に遡る現役ビジネスマン時代のことでした。
叔父さんが勤めていたのは、わがふるさとの唯一の上場企業であるあるアパレルメーカーでした。
当時叔父さんは、その会社の関西にある販売拠点の支社長の辞令を受け、意気揚々として着任したと言います。
着任後まず叔父さんが取り掛かったのは、販売先の把握でした。
販売先台帳から一社一社、売上高とその動向、売掛金の回収状況などをチェックして、取引先の情報を頭に入れていきました。
するとある一社から目が離せなくなくなりました。
その会社、仮にA社と呼ぶと、A社に対する売上が急速に伸びているのはいいとして、売掛金の残高が社内規定で定められた与信限度額を大きく上回る状態になっていたのです。
さらには、その売掛金の回収が時々遅延する傾向にあることも気になる兆候でした。
この取引先A社に気づいた叔父さんは、とても不安になりました。
「自分は、会社から大きな期待を掛けられてここの支社長に任命されたのだ。いくら売上目標を達成しようと、一件でも焦げ付きを起こそうものなら全部台無しだぞ。そんな失態だけは演じたくない。」と。
そこで、担当営業マンを呼んで会社の詳しい状況を問い質しましたが、どうも要領を得ません。
どうしようかと悩んだ叔父さんは、あることに気づきます。
それは、A社の取引銀行がたまたま叔父さんの会社の取引銀行と同じであったことです。
「そうだ!取引先の信用に関わることなら銀行が一番詳しいじゃないか。着任挨拶で名刺交換したあの支店長ならば、銀行の主要顧客でもあるはずのわが社に対して、きっと親切に教えてくれるはずだ。」と考えたのです。
叔父さんはすぐに銀行支店長にアポイントを入れて訪問しました。
応接室に通された叔父さんは、支店長に事情を話し「あのA社について、銀行さんはどのような見方をしていらっしゃるのかを教えていただけないでしょうか」と頼み込んだのです。
すると間髪を置かずに、その銀行支店長は答えたと言います。
「あのA社なら、まったくご心配に及ぶような会社ではありませんよ。」と。
その支店長の心強い言葉を聞いた叔父さんは胸をなでおろしました。
「よかった。銀行の支店長がここまで太鼓判を押してくれる先ならまずは心配ないだろう。」と。
支社に帰った叔父さんは、担当営業マンを呼び「どうも私の取り越し苦労だったらしい。ただ社内規定は破れないから、今後A社への販売は徐々に絞って、急がないまでも遅くとも1年内には規定の与信限度額内に収まるように持って行ってくれ。」と指示したそうです。
それから数カ月後、A社に対する売掛金の与信限度超過額が当初の3割ぐらいになった頃、突然担当営業マンから緊急連絡が入り、A社がその日倒産したことを知らされたのです。
叔父さんは、目の前が真っ暗になったと言います。
A社への売掛金は、減らしたとはいえ金額的にはかなりの額にのぼり、支社の業績に与えるダメージは甚大でした。
それ以上に、与信限度額オーバーを認知しながら迅速な対応を怠ったことは、支社長としての重大な過失であると自覚したからでした。
叔父さんは、おそらく支社長の任を解かれることになるだろう、と覚悟したそうです。
すると案の定その二日後、東京本部の販売担当役員の名で、直ちに上京のうえ役員室に出頭するようにとの通達が届きました。
そしてこれには私自身もとても驚いたのですが、叔父さんは次の日、スーツの内ポケットに辞表を忍ばせて東京行の新幹線に乗り込んだというのです。
東京本部に到着した叔父さんは案内されるままに担当役員室に入ります。
現れた役員に対し自らの管理不行き届きを詫び、更迭の処遇にも甘んじる覚悟であることを告げました。
すると思わぬ言葉が役員の口から返ってきたのです。
「十分に反省していることは解った。でもそこまで深刻になるな。実は俺もその昔の支社長時代、同じことをやらかした経験があるんだ。これからは気をつけろよ。」で、終わったそうです。
辞表まで用意して臨んだ叔父さんとしては、やや拍子抜けの展開ではあったものの、緊張から解放されてホッとしました。
しかしその安心とは裏腹に、ニセ情報を提供した銀行支店長への怒りがムラムラと湧き上がってきたのでした。
銀行員とは、ここまでいけしゃあしゃあと大嘘をつく人種なのか!
叔父さんは、銀行員の言うことなど二度と耳を貸さないぞ、と心に決めたのでした。
ここまではおとなしく叔父さんの話に耳を傾けていた私ですが、ここまでくるとさすがに銀行界を代表して申し開きをしておかなければ、という気になり口をはさみました。
「叔父さん、実は銀行員には『守秘義務』というのがあって、取引先に関する情報を第三者に漏らすことは固く禁じられているんですよ。」と。
しかし、銀行員のおかげでクビになるところだったと思い込んでいる叔父さんが、聞く耳を持たなかったのは当然の成り行きでした。
そして叔父さんとのやり取りが終わった後、この話とまったく同じ状況の下で、私自身が窮地に陥った事件の記憶がまざまざと蘇ってきました。
それは、事件簿2.「取引先の応接室でほとんど土下座しました事件」として、次回お話します。
