40.健康診断ツールとしてのキャッシュ利益
前回までの実例企業、粉飾決算企業エフオーアイ社と超優良企業トヨタ自動車のキャッシュ利益比較から、「キャッシュ利益」という概念は、決算書による企業の健康度測定の立派なツールになることを理解して頂けたのではないでしょうか。
キャッシュ利益は企業の健康診断に不可欠なアイテムになり得るのです。
ただし、私たちの健康診断でも同じですが、健康なのか不健康なのかを判定するためには、まずからだの理想的な健康状態を定義しておく必要があります。
そこで今回は、理想的な健康状態にある企業とは、どのようなキャッシュ利益なのかを定義したいと思います。
恐らく実例企業の分析過程でほぼ理解されているとは思いますが、改めて一般論としての「キャッシュ利益のあるべき姿」を定義しておきたいと思います。
箇条書きにすると以下の4つの状態のすべてを実現している状態となります。
キャッシュ利益のあるべき姿
- 経常利益・当期純利益が黒字で、それとほぼ同額のキャッシュ利益の黒字が確保されていること。
- 経常利益から経常キャッシュ利益、当期純利益から当期最終キャッシュ利益に至る過程に多額、不健全な要因がないこと。
- 当期最終キャッシュ利益の黒字が、事業の拡大・発展に資するような投資資金として支出されていること。
- 上記投資資金の源泉が当期最終キャッシュ利益に加えて、金融取引を含む外部資金調達である場合、返済能力を超える金融資金調達となっていないこと。
上記のすべての条件を満たすのが理想的な健康状態なのですが、実際にはよほどの優良企業でない限り、あるいは企業経営の過程で起こる様々な事象の影響から、常時全項目合格というのは難しいかも知れません。
そこで、一見不合格に見える場合でも不健康と考えなくてもよいケースを例示しておきたいと思います。
- 経常利益・当期純利益が黒字で、それとほぼ同額のキャッシュ利益の黒字が確保されていること。
この条件に該当していなくても不健康状態と考えなくてもいい場合で注意しなければいけない典型は、「利益は黒字、キャッシュ利益は赤字」のパターンです。
これは、表の顔である利益が良好、裏の顔または真実の顔であるキャッシュ利益が危険状態ということですから、実態の把握が重要になります。
その実態が問題なしと判断できるのは、例えば利益とキャッシュ利益の大幅乖離状態が短期間で解消される見込みがあることです。
決算書においては利益黒字・キャッシュ利益赤字の状態が発生していても、一時的なものでその後の期において両者の乖離が解消されており、数期の合算数字では利益とキャッシュ利益の差がなくなっている場合です。
それを検証するためにも、キャッシュ利益の算出は直前期だけでなく過去2~3期分も同時に行い、その合算数字を検証することも大切となります。
- 経常利益から経常キャッシュ利益、当期純利益から当期最終キャッシュ利益に至る過程に多額、不健全な要因がないこと。
これに該当していなくても不健康状態と考えなくてもいい場合は、次のようなケースです。
経常キャッシュ利益、当期最終キャッシュ利益に大きな金額的影響を与えている要因の実態が納得できるものであり、かつ短期に解消するものである場合です。
具体例で言えば、経常キャッシュ利益に大きな影響を与えうる要因の一つに「売上債権の多額増加」があります。
これにより経常キャッシュ利益は経常利益比大幅減少となりますが、この「売上債権多額増加」の実態が期末時期での売り上げ急増だったとすれば問題ないと考えることができます。
企業の営業形態は多様ですから、期末時期に売り上げが集中するすることもあり得ます。
しかし本当の売上であれば期末を越えれば代金は通常通り回収されるはずですから、売上債権が翌期に回収されて減少することにより、当期翌期合算での経常利益と経常キャッシュ利益の差は解消することになり問題はありません。
- 当期最終キャッシュ利益の黒字が、事業の拡大・発展に資するような投資資金として支出されていること。
これに該当しない場合でも問題ないと言えるケースは、まさに当期最終キャッシュ利益が具体的に何に使われているのかの内容実態によって決まります。
分かりやすい言葉を使えば「無駄遣いされていないこと」です。
何をもって「無駄遣い」と判断するかは、企業の事業内容によっても様々ですが、一般論としては「企業の成長充実に役に立たないギャンブル投資」が典型例です。
過去の事例で言えば、不動産バブルの元凶となった土地値上がり益のみを目的とした事業に無関係な不動産の購入資金や短期的キャピタルゲインのみを目的とした株式へのギャンブル投資資金などがこれに当たります。
- 上記投資資金の源泉が当期最終キャッシュ利益に加えて、金融取引を含む外部資金調達である場合、返済能力を超える金融資金調達となっていないこと。
これを満たしていなくても不健康状態と考えなくてもいい場合は、次のようなケースです。
当期最終キャッシュ利益に対して投資額が大きいために金融資金調達する場合の問題点は、金融資金は必ず返済を要求されることです。
ということは金融調達金額に対する返済原資が確保されていることが問題ない条件となります。
返済原資の基本となるものは、当期最終キャッシュ利益ですが、この額が返済原資として遜色あるとすれば、それに代わり得る保有資産に余裕があって、それらの売却換金を見込めば最終返済余力には問題ないと言える場合などが該当します。
以上が「キャッシュ利益のあるべき姿」の考え方です。