31.貸付係の常識・「手形貸付」は日本でだけって知ってました? 

前回は、主に「手形貸付」によって実行される「短期貸出」の返済安全性の問題についてお話しました。
今回は、「手形貸付」に関わる問題点をお話します。

まず「手形貸付」で使われる手形は、「約束手形」と呼ばれます。
「約束手形」とは、商取引において買い手がその代金の現金支払に換えて、数カ月後の一定期日での現金支払を約束して売り手に交付する手形です。

この「約束手形」の仕組みは、明治以降に法律や制度整備が進められ、現在の日本では企業間決済の半分以上を手形決済が占めているといわれるほど、商慣習として確立・普及しています。
世界の中で企業間支払の手段として手形制度を有するのは日本、中国、韓国ぐらいですが、銀行借入の手段にまで利用しているのは日本だけです。

銀行界において、貸出、特に短期貸出の契約手法として「手形貸付」が一般化した理由には、「約束手形」の負債としての特性が大きく影響していたのではないかと私は考えています。
それは、日本においては「約束手形」を含む「支払手形」は、あらゆる負債のなかでも最も期日支払に厳しい負債であるという特性を持っているのです。
どういうことかというと、それには「手形交換制度」を背景に各地の銀行協会によって運営されている「手形交換所」の存在が大きく影響しています。

銀行には、会社を中心とした顧客から毎日大量の手形・小切手が預金口座入金あるいは手形割引依頼の形で持ち込まれます。
そこで一定の地域内にある多数の金融機関が集合し、各金融機関が持ち寄った手形・小切手などを呈示・交換して決済するための施設が「手形交換所」です。
その「手形交換所」のルールが手形や小切手を振り出した会社に、ある強迫観念を強いるのです。

そのルールとは、会社や個人が同一手形交換所管内で6カ月以内に手形・小切手の期日決済が出来ない、いわゆる「不渡り」を2回起こした場合、「取引停止処分」を受けるというルールです。
この「取引停止処分」を受けると、会社や個人は、手形交換所加盟の金融機関と2年間にわたり当座取引や貸出取引ができなくなるのです。

会社が経営破綻によって営業活動を存続できなくなることを世の中一般では「倒産」と呼んでいます。
「倒産」イコール資金破綻でもありますから、その取引先は、「倒産」が判明した会社との取引を直ちに終了させて、売掛金などの回収行動を起こすことになります。

銀行借入金の返済不能は、「倒産」に近い状態かもしれませんが世間に「倒産」と認識されない限りは借入会社は、営業を継続できる可能性が十分に残されています。
なぜなら銀行には守秘義務があって取引先との取引内容を公表することが出来ないために、世間からその会社が返済不能状態であることが見えづらいからなのです。
これに対して手形交換所の「取引停止処分」は公表されるために、世間からは「倒産」したと明らかに認識されることになります。

やや極端な言い方をすれば、「銀行借入の返済不能は、それだけでは倒産しないので恐れるに足らずだけど支払手形の決済不能は、取引停止処分により即倒産となるので、絶対に回避しなければならない」となるわけです。
これが「支払手形は、あらゆる負債のなかでも最も期日支払に厳しい負債である」という理由です。

銀行の短期貸出形態が「手形貸付」主流となった背景には、このように実業界での手形利用が一般化していたことに加え、「借入目的とはいえ振出した手形は、絶対に決済・返済しなければならない」という認識が「借入債務者の返済義務意識を強化」すると考えられたからではないかと思うのです。

しかし同時にこのことが、「短期運転資金目的での手形貸付の矛盾」を生む結果になったのです。
その矛盾とは何かと言えば、「経常運転資金使途での手形貸付は期日に全額一括回収できない」ことです。
この理由は、前回の30.貸付係の常識・「短期貸出の方が安全」は間違いでは?のブログで説明したように、会社の「運転資金」が一定の期日に全額キャッシュ化することは起こり得ないからです。

貸借対照表から算出される「経常運転資金」の資金化は、構成資産である売上債権・在庫・その他営業債権のキャッシュ化によって実現しますが、それらの資産がある特定日に一括してキャッシュ化することはあり得ません。
構成資産の一つである売上債権にしても、その中身は様々な相手先毎に違った期日、金額で構成されていますから、貸借対照表記載の売上債権額がある日全額キャッシュ化することはあり得ないのです。

つまり私の言いたいことは、「日本の会社は、期日決済出来ないと倒産する危険性のある手形を使って、その手形面記載の期日、金額では現実的に返済出来ない借入をしていますよ」ということなのです。

「手形貸付」に対して、銀行の貸出形式の中には「運転資金貸出」に最適なものがあります。
それは「商業手形割引」という貸出形式です。

銀行の「商業手形割引」とは、会社が取引の対価として受取った手形を期日前に銀行が買い取ってキャッシュ化する貸出形式です。
この場合、銀行が買い取る商業手形は貸借対照表の受取手形に当たり、個々の商取引の対価として受取った売上債権であり、「経常運転資金」の構成資産でもありますから、これこそが典型的な「運転資金需要」に対応した貸出であると言えます。
また銀行が割り引いた商業手形の期日が到来して決済されれば、それは実質的な返済となります。

つまり「商業手形割引」こそが、本来の運転資金貸出のあるべき形、返済⇒新規借入⇒返済⇒新規借入を繰り返している貸出形式であると言えるのです。

今回は、ここまでです。
次回は、「借入手形の手形交換所決済は可能か」という点についてもう少し考えてみたいと思います。

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