1.貸付係のあなたへ、はじめまして
はじめまして、
銀行員人生を43年間続けてきた自称“キャッシュ利益マスター”です。
このブログでお伝えしたいことの一つは、タイトルにある通り、「決算書の読み方」を理解してもらうことなのですが、その対象者をあえて「貸付係のあなた」に限定しています。
その理由は、「このブログは、書店の会計本コーナーに並んでいる、“決算書の仕組み”的な決算書に関する説明ものではなく、“企業の健康状態”を知るための決算書の読み方をテーマにしていること。
そしてあらゆる人向けではなく、ビジネス界で決算書を読む必要がある二大当事者のうちの一方である、“貸付係”すなわち“債権者”の立場での決算書の読み方を伝えたい」からなのです。
逆に言えば、決算書を読む必要があるもう一方の当事者、それは“株式投資家”を典型とする “投資家”ですが、「そちらは対象者としていませんよ」ということでもあります。
なぜそんな区別をしているのかというと、「貸付係=債権者」と「株式投資家」では決算書に対するニーズが全く違うからなのです。
やや独善的と言われるかもしれませんが、私なりに両者の決算書に対するニーズの違いを説明させていただくと、「貸付係=債権者」の最重要ニーズは、「貸していい会社かどうか」の見極めです。
これに対して、「株式投資家」の最重要ニーズは、「おお化けする会社=株価が高騰する会社かどうか」の見極めなのです。
「貸付係=債権者」と「株式投資家」の間でどうしてこれほど、決算書に対するニーズに違いがあるのかというとそれは、決算書の主(ぬし)たる会社との関係において、両者のリスク・リターンには大きな違いがあるからなのです。
「株式投資家」のリスク・リターンの具体例として、今や超優良企業となったIT銘柄「ヤフー株式」への投資を考えてみます。
「ヤフー株式」の上場後値動きを調べると、初値2百万円だった株価は、2005年12月終値734百万円と初値比367倍の最高値を付けた時期がありました。
もしヤフーの株を初値で購入して、最高値で売り抜けることができたとしたら、その「株式投資家」は実に367倍のキャピタルゲインを手にすることができたということです。
この事実をリスクの面でとらえ直してみると、「株式投資家」というのは、どの会社に対しても一社1百万円ずつの分散投資を行っていた場合、投資先367社が倒産して、367百万円の株券が紙くずになったとしても、運よく368社目の投資先がヤフー株であったとすれば、1百万円で購入していたヤフー株は367倍の367百万円になっていたはずですから、367社分の損失367百万円全額を帳消しにできる可能性があるのだということを意味します。
とすれば株式投資の世界では、ある程度の損失リスクは覚悟の上で、ヤフー株のような「おお化けする会社」を探し当てることこそが、大きな関心事になるであろうと想像できます。
これに対して「債権者」の代表として、「貸付係」の世界を考えてみます。
指標となる数字は、預金と貸出の金利差だけでなく市場からの資金調達費用や債券運用益、人件費なども勘案した銀行業務全体の利益率を表す「総資金利ざや」という数字です。
全国銀行協会が公表している2022年3月の「総資金利ざや」の数字は、全国銀行の平均で0.1%強となっています。
この数字が意味するものは、銀行貸出では、貸出先一社が倒産してしまうと健全企業1,000社分の貸出収益が吹き飛んでしまうということです。
なぜならば、銀行がどの会社に対しても一社1百万円ずつの分散貸出を行っていた場合、貸出先1社が倒産すると元本ロス1百万円がまず発生することになります。
これを他の健全企業からの貸出収益で穴埋めするためには、1社当たりから得られる貸出収益は、0.1%・1千円に過ぎないわけですから、1百万円/0.001百万円で1,000社分からの年間貸出収益が必要となってしまうのです。
さらに銀行の「総資金利ざや」の源泉である貸出金利水準は、貸出先の信用力によって多少のバラツキはあるにしても、優良会社には1%の金利が業績不振会社には10%の金利を適用するというほどの極端な金利差にはならず、せいぜい2~3ポイント差の範囲内に大半の取引先が含まれてしまうのが一般です。
なので、倒産による元本ロスを別企業からの高金利・高収益取引により一発逆転カバーできるというようなことも起こり得ないのが銀行貸出の世界なのです。
つまり、貸出先倒産による「損失リスク」が経営に極めて大きなダメージを与えるビジネス、それが銀行貸出・債権者の世界なのです。
昔から、銀行員を評して「石橋を叩いても渡らない」といった表現がありますが、まさにそうならざるを得ない業種特性を持っているのが銀行貸出業なのです。
こうした背景から、「株式投資家はリターンの大きさゆえに大きなリスクテイクも可能」なのに対して、「貸付係=債権者は、リターンの小ささゆえに過大なリスクテイクは致命傷になってしまう」ということなのです。
ここから、「貸付係=債権者」が決算書から読み取りたい最重要テーマは、「貸していい会社かどうか=倒産の危険性が大きい会社かどうか」であり、「株式投資家」が決算書から読み取りたい最重要テーマは、「おお化けする会社=株価が高騰する会社かどうか」となることを納得いただけたのではないでしょうか。
もちろん、「株式投資家」が「倒産の危険性が大きいかどうか」を無視しているなどと言う積りはありません。
比較の問題として、「株価が高騰する会社かどうか」への関心度の方が高くなりがちであると言いたかったのです。
このブログでは、「決算書をどう読めば、貸していい会社かどうかが見えてくるのか」を貸付係のあなたに具体的に示していくことを中心テーマにしています。
さらに最初にその答えを言ってしまうと、それは私の名前にも使っている「キャッシュ利益」こそが答えなのです。
詳しくは、今後おいおい説明させてもらうとして、初回はこれぐらいにしておきたいと思います。
どうか今後とものご愛顧をお願いします。
頑張ってください
貴重な経験のフィードバック、分かり易く説明頂き
ありがとうございます。
読ませて頂くと新たな発見や気付きも有りました。
タイトルを選ん読み込み、これからも参考にさせて頂きます。
励ましのコメント、ありがとうございます。
拙い内容ですが、読んで下さっている方のお役に立てるよう、頑張ります。