13.「キャッシュ利益」の有用性

繰り返し言ってきたことですが、「キャッシュ利益」とは「利益のキャッシュ実現額」のことです。
あらためて、決算書を「キャッシュ利益」で評価することの意義を確認しておきたいと思います。

以前のブログでも述べたことですが、決算書の利用者は、「債権者と株式投資家」に大きく二分されるのですが、どうも「債権者としての決算書の読み方」に精通している人がどんどん少なくなっているのではないかと懸念しています。

それを裏付ける典型的な現象が、会社を説明したり、分析したりする際の数値情報が常に連結・決算書からの引用に限られ、単体・決算書が無視されることが多くなってきていることです。

私はそういう場面に遭遇するたびに、「あぁこの筆者は、決算書を使って会社分析をしたことがない人なんだろうなぁ」と思ってしまいます。

なぜなら、連結・決算書から解ることはせいぜい当該会社グループがどれくらいの大きさかということぐらいで、それ以上の詳細な実態分析は無理だからです。

ですから、会社の評価基準が「大きいことはいいことだ」だけで満足できる人には便利な資料ですが、会社の信用力とかを知りたいといった欲求のある人には使えない資料です。

貸付係として決算書を見るとき、最初に確認しておかなければいけないこと、それは会社が倒産の兆候を示していないかどうかです。
なぜなら、貸したお金が返ってこなくなるという貸付人にとっての最大被害の原因は、借主である会社の倒産である場合がほとんどだからです。

そしてその会社倒産の危険性を示めす決算書の兆候が「赤字」ですから、貸付係としては貸出先の決算書で真っ先に確認しなければいけない項目は「赤字か黒字」なのです。
もちろん赤字とは利益がマイナスであることであり、黒字とは利益がプラスであることです。

この点については、後日のブログでさらに詳しく説明する積りですが、ここでは「会社の倒産は、まず決算書・損益計算書の利益赤字から始まる」と覚えておいて下さい。
ということは、決算書・損益計算書に利益赤字が生じていないかどうかが、最初の点検事項であるということです。

次にこのブログで「キャッシュ利益」を理解して頂けた後は、「利益の裏表の関係にあるキャッシュ利益赤字ではないかどうか」が第二の点検事項となります。

そして、仮に利益であれ、キャッシュ利益であれ赤字が発生していた場合、それは人間に例えれば病気になっているということと同じですから、次にはその病気の軽重を診断しなくてはいけないことになります。

その基準は、一つは金額の大きさであり、もう一つは何期間連続しているかという期間の長さです。
さらには原因は何かについて分析していくことも必要です。

ということは、分析には最新の決算書だけでなく、できれば数期分以上の過去のものも必ず必要になるということです。

ところが、連結・決算書を過去のものと比較分析することはほとんど無意味です。
連結・決算書を構成する会社は、毎期毎期変化する可能性があり、手元の連結決算書の構成会社が前期決算時と同一かどうかを直ちに確かめることさえできません。
したがって、それらの会社の合算数字である連結・決算書を1期前、2期前と比較しても対象の同一性、継続性が保証されませんから意味がないのです。

また、会社の外部関係者である貸付係のあなたが連結・決算書分析によって何らかの疑問点を発見したとしても、それ以上の追究はできません。
なぜなら疑問点の追求のためには、それが連結構成会社のどの会社のどのような数字が原因となっているのかを調べる必要がありますが、ときに何百社の合算数値である連結決算書数字のみから外部の目でそれを知ることは不可能だし、当社自身にさえそれを把握できているかどうか疑問だからです。

さらに、「利益の真の顔ともいえるキャッシュ利益」の算出のためには、最低2期分の決算書が必要であることからも、連結決算書から外部の目で正しいキャッシュ利益を算出することは不可能なのです。

連結決算書にはキャッシュフロー計算書があるから、それを見ればいいではないかと言われるかも知れません。
しかし、「キャッシュ利益」は、本来2期以上の貸借対照表と損益計算書から自動的に算出できることに大きなメリットがあります。

ところが、連結決算書・キャッシュフロー計算書では、その数値を貸借対照表と損益計算書から検算できないケースがいくつも散見されています。
つまり、外部の目から連結・キャッシュフロー計算書の数値の正しさを検証できないのです。「会社側がこうだと言っているのだから信じなさい」と言われているのと同じです。

これは、連結決算採用以前の単体決算書では考えられないことであり、外部チェックの困難性ゆえに、会社側の虚偽表示、すなわち粉飾決算へのガードが極めて緩いのが連結決算書なのです。

貸付係のような会社の外部利害関係者にとって、決算書は会社の成績表としてとても有益な資料です。
一方で当事者である会社側には、成績表であるが故に常にその内容を実態以上によく見せたい、いわゆる粉飾決算の誘惑がつきまといます。

この場合の粉飾決算書は、赤字の利益を黒字に変えることになります。

しかし、単体の決算書は複式簿記の「貸借平均の原則」というメカニズムに厳密に支配されている結果、利益の赤字を黒字に変えるという不正処理を行うと、決算書の五要素である「資産・負債・純資産・収益・費用」のどれかの相手勘定を同時に操作する必要があるために、結構異常な動きになり易いのです。

様々の粉飾決算書を検証していくと、その異常性は「損益計算書・利益とキャッシュ利益の異常乖離」という結果を生んでいるケースが多いことが分ります。

よって、貸付係として決算書を読む場合は、利益とキャッシュ利益の異常乖離の有無を検証するという視点がとても重要です。
そして、「人類の商取引の目的はキャッシュの増加である」ことを忘れずに、むしろキャッシュ利益こそが実質利益である可能性が高いと考えて、会社の実態を判断する必要があるのです。

そこで次回は、キャッシュ利益の算出方法を説明したいと思います。

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